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れっつ!cooking♪21.6.20

 

「あた〜〜りぃ〜〜〜〜!!!!3等圧力鍋です!!!!!」

ガラガラガラガラン、不快な金属音が打ち鳴らされ、いつの間にか手元に景品が収まっていた。

 

こんなん使わねえよ!!!!(まじぎれ)を果たした私は、料理大好きな知り合いにくれてやった。

「えっ………く、くれるんスか?!!!これ!だってコレ……ずっと欲しくて………………えっホントにいいんスよね?えっ………………………」

珍しく煮え切らないモタついた口調に見たことないほど頬を赤らめ、手を口元にやりニヤケが隠し切れない様子で、この人にあげてよかったなあと思う。

「うん、良いよ。だってこんなん使わないしさ私…それよりアッシュくんみたいにちゃんと使ってくれる人が持ったほうがいいでしょ」

ありがとうっス、ほんとうれしいっス!と屈託なく笑う彼は夏に似ていた。

 

それから半年くらい経ったある日のこと、料理を振舞ってくれる約束で彼のうちを訪ねると、インターホンに出ない。手が塞がってるのかも、と待つも幾ら経っても返事は無い。

数度押したところでドアに手を掛けると鍵が開いている。彼は田舎出身のためか、こうして時々無施錠にすることがあった。危ないけど、真面目でしっかりした彼のうっかりポイントはちょっと微笑ましい。

靴を脱ぎ奥へ進む。

「アッシュー?玄関また開いてたよ……」

トマトとコンソメの良い匂いで満たされた部屋は暖かいが彼の姿はない。キッチンへ近付く。

彼が床に転がっていた。

側にはフタがひっくり返っており、見ると圧力鍋の中にまだ温かいパスタと赤いスープができていた。

 

 

間もなく救急車が来て彼は運ばれ、私も連れてかれた。よく分からなくて、ガタガタあり得ないくらい揺れて乗り心地サイアクな車内であの料理はどうするんだろう勿体無いとかどうでもいいことを考えてた。

入院と手術の書類を身内でもないのに書かされ、そのまま彼はどこか運ばれ、私は取り残された。

特に説明も無いまま、待合で座ったり院内のコンビニでパンとお茶を買い時間を潰す。

3時間経った気もするがまだ1時間程度だ。看護師が私に近付き、処置は終わったが絶対安静面会謝絶のようなことを言われ、後は家族に連絡して来て貰うから帰っていいと伝える。

彼は大丈夫なのか尋ねると、できることは全てやりました、と去って行った。

 

私は彼の身内でも、ましてや恋人ですらないただの友人のようなもので彼の家族とも面識が無く、仮に有ったとしても血縁者以外面会不可の状態であるらしいからあれから一度も会えてない。

一つだけ聞いたのは、鍋に背を向けて作業しているところ、後頭部に何らかで外れた蓋が当たったのだろうということだけ。

 

他は、今彼が生きてるか死んでるかすら知る由もないのだった。

 

 

 

 

 

♪end♪

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