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希死念慮のある夢主とスマの話です。普通に明るい。22.12.30

「ヨシ!死のう!!!」
 夜中でテンションがおかしくなってるのかそう思い至った私は、予め親に隠して冷蔵庫から持ってきておいたお酒を飲みつつ机の上にティッシュを何枚か並べ、こんなときのため予め買っておいた鎮痛剤をシートからプチプチと出していく。大量の錠剤は、致死量は3箱分くらいと見たからその通りにした。
 白にサンドされたピンクの層が可愛らしい?が、でか過ぎて飲みにくいし、「効く」成分(つまり、死ねる成分)はピンクのところにだけ入ってるらしく、白いところは胃を荒らすらしいから丁寧にハサミで剥ぎ取っていく。
 本当はカッターの方がやりやすいのかもしれないけど、手元に無いし、何だか手を切りそうで怖いから、普段odするときもいつもこうしている。
 繰り返すと、段々プロ並みの腕前になってきた!とか馬鹿なことを考える。何のプロだよ。
 そろそろ手が疲れてきた。それでもまだ30tくらいで……道のりは長い。それとも、もうこのまんま飲んでしまうか?

「そんなに飲むのかい?」
 ヒッヒッヒ、という聞こえる筈のない声に肩を大きく揺らし、回転椅子から落ちそうに振り向くと、そこには誰もない。当然だ、だってここは自分の部屋。私しかいない……筈、なのだから。
 暫くキョロキョロ見回すと、ニヤニヤ笑いの口が空中にフワフワ浮かぶのを見つけた。
「あっ………!」
「ヒヒッ。」
「スマイルさん………!!」
 そう言うと、スルスルと足元から姿を現す彼。
「そんなに飲んだらキモチワルクなっちゃうよ?」
「なんで………??!」
 自室は荒れ果て、床には物が散乱しており、到底他人に見せられる状態ではない。加えてさっきお風呂に入ったからせめて清潔とはいえ、私は凄く適当な寝巻き。上はフワフワした生地の、可愛くないウサギのワッペンがワンポイントの白いトレーナー?に、それとセットの淡い小豆色のような長ズボン。と適当な暖かいだけが取り柄のパーカー。勿論お風呂後だから化粧はしてないし、髪は乾かしただけで櫛も入れていない。人様に会えるような状態ではなかった。
 何故今…………?!!
 頭を抱え、背を向ける私に首を傾げつつ前に回り込む彼。
「ハイぼっしゅ〜〜」
「あっ」
 ザラザラという音を立て、彼の引き寄せたゴミ箱に薬は全て飲み込まれた。ああ………結構高いのに。さよなら、私のお小遣い。
 ポンと頭に手を置かれる。ニコリと笑う彼。
「あの……すいませんけど………。」
「ん?」
「もう帰ってくれません?隣の部屋に父親もいるし(まだ起きてるし)、ちょっと……。」
「あらら」
 諦めてくれるかと思ったけど違った。

「じゃあ、ボクん家来る?」

 いやいやいや。今はもう真夜中ですよ!1時!こんな時間に外出したのがバレたら怒られるし、早く帰ってほしい。
「来ないの?ヒッヒ……じゃあボクずーっとここにいよっかな〜」
 とんでもないこと言い出したぞこいつ。早く帰れ!!!!!!!でもこういうときの彼は言い出したら絶対引かないんだよな……。ということを知っている私は、洗面所へ行きよそ行きに着替え、二人で極力音を立てないよう玄関を出た。まあもしかすると父親には会話が聞こえたかもしれないけど、わざわざ母親に言ったりはしないだろう。多分………。。。

「スマイルさんち、広〜〜〜………いですね」
「そーお?フツーじゃない?」
 うちもそこそこ広さはあるが、彼の家……というか屋敷は、その何倍もある。
 外観は「凄く立派なお化け屋敷」みたいな感じだ。ツタがはっていて、木が生い茂り、石造りのいかにもな感じ。
 まず模様付きの恐ろしげな門から建物までがかなり歩く。その周囲は木や草が茂り、全く手入れされてないようだ。時折ガサガサと聞こえて怖い。色々な動物や得体の知れない生命体なんかも出るらしく、先程入らないようにと注意された。僅かばかり外灯が点いているとはいえ、かなり暗く嫌な想像ばかりが巡る。彼から余り離れないように早足で歩く。
 やっと玄関まで来ると、両脇に奇形のガーゴイルのような何かの置物が飾られている。彼の趣味らしい。
 彼が開けてくれた重い木のドアをくぐると、だだっ広い土間。幾つか彼の変な靴があるだけで、あとは変なキバの生えた動く植物?みたいな鉢植えとか、ギャンブラーZの顔のついた自転車とか、タイヤとかが謎にごちゃごちゃ置いてある。
 彼はショートブーツを適当に脱ぎ捨て、私は取り敢えず揃えておく。
 そこら辺をウロウロ見ていると彼が階段を上がるから、それについて行く。2階も広くて探検したいなと思った。3階に続く階段があるのには驚いた。本当に一人で住めるの?この屋敷……。絶対ホコリまみれの蜘蛛の巣まみれでしょ。実際、余り使ってなさそうな通路にはでかい蜘蛛が巣を張っていた。
「部屋こっちだヨ」
 彼がドアを開けて驚いた。
 私の部屋より汚い………。
 床一面にものが置かれており、歩けるスペースが一本あるくらいだ。だから彼は私の部屋を見ても何も言わなかったのか……と納得してしまう。
「そこ座ってて。今お茶持ってくるネ、コーヒー飲めないんだよね?」
「そうですね…」
 味は平気だけど、飲むとお腹を壊してしまう。
 促され、彼のベッドに腰掛ける。スプリングが軋み、古いことを知らせる。布団は当然のようにギャンブラーZ柄。枕はツギハギ。枕元にはギャンブラーZのぬいぐるみ。
 山を崩さないよう慎重に少し歩き部屋を観察してみると、棚に陳列されたギャンブラーZのグッズやDVDにフィギュア、壁に飾られたポスター。どんなに好きなのかが部屋を見るだけで伝わってくる。本棚には怪しげな黒魔術っぽい本、いろいろな漫画、ギターの譜面、小説などが並ぶ。ギターとベースがあるのはちょっと安心した。
 床には服や漫画に雑誌、よく分からないメモなんかが散乱している。
 よく考えたら部屋がこんなに荒れてるのなら、普通にリビングとかに通してもらっても良かったのでは……?と思ったが、何となくリビングの様子は見なくても分かる気がしたからやめにした。
 ベッドに戻ると、彼の戻る足音が聞こえ、ドアが開く。ベッドの前に置かれたローテーブルにティーバッグの入ったままの紅茶と、オレンジジュースが運ばれる。
「これボクのー」
 にっこり笑い、当然のようにジュースを手に取る彼。一体いくつなのだろう?前聞いたときには適当にはぐらかされたというか、彼もよく覚えてないらしい。3桁ではあるというけど…。
 適当な濃さになったところでティーバッグをゴミ箱に出し、紅茶を啜る。
「あったかーい…美味しいです。」
「あ、ホント?貰い物だったと思うけど、ボク全然紅茶飲まないから賞味期限切れてたんだよねえ…それでも一番新しいのにしたんだけど。他のは10年前とかに切れてたよ……ヒヒッ」
 何笑ってんだ死ね。とは流石に言わなかったがまあ……飲んで大丈夫だよねこれ?味と匂いは普通だけど。匂いを嗅いでるとフフッと笑われ、イラッときた。
「ねえ、ギャンブラーのDVD観ようよ。ボク1期の5話と2期の24話がスキなんだよねえ」
 おもむろに立ち上がりTVを点け、デッキにDVDをセットする彼。
 ベッドに腰掛けたままTVが観れるようになっているから、いつもこうしているのかもしれない。

「ホラ!今のシーン!観た?!!!シビれるよねえ〜〜〜!!」
 普段人前で、というかライブではクールに振る舞っているらしいとは到底考えられないテンションでまくしたてられる。ハイ…とかウン……とか適当に相槌を打つ。正直もう3時とかで、私は眠かったし、朝になる前に帰らないと絶対に親にキレられる。
 集中してないのがバレたのか、いつの間にか顔を覗き込まれており、目が合う。
「……で、どうしてあんなことしたの?」
 最初は意味が分からなかったが、ああ、あのことかと分かる。
「いや……まあ。」
 適当に誤魔化そうと思ったが、彼はまだ私を見つめたままで、言葉の続きを待っている。ああ……。。
「まあちょっと…気紛れって言うか。試しにやってみようかなーみたいな。みたいな……」
 その答えじゃないという雰囲気を醸し出され、いよいよ逃げ出したくなる。
「ちょっとトイレに……」
「行ってもいいけど、一人だとアブナイかもね。ここ、変なのがウジャウジャいるからさあ……。まあボクは知らないけどね」
 知らない人とでも話すような冷たさを出される。彼の視線はDVDを流しっぱなしのTVに向けられている。
「うーー………!分かりました。言います。死のうとしてました。すいません……」
 やっと笑顔に戻り、こちらを見る彼。
「何で謝るの?別に怒ってないよ…まあ、なかなかホントのこと言わなかったのはちょっとムカついたけど?」
「怒ってるじゃないですか…すみませんだって…」
「まあ良いよ別に。それより死にたいの?」
「さっきは…今はあんまり。別に。」
「ボクはさ…生きてることはスバラシイって思ってるけど。それがみんなに当て嵌まる訳じゃないもんね。」
 彼の手がリモコンに伸び、プチとTVを消す。一気に部屋は静まり返り、衣擦れの音くらいしかしなくなる。
「昔はボクもいろいろあったけど……でもギターとか、ギャンブラーに出会ってから変われたんだよね。だからキミにもそういうものがあればイイなって……そう思うヨ。」
 叱られたり呆れられたりキモがられるかと思ってたから、普通に良い話をされてちょっと吃驚した。
「うーん絵とかは好きですけど……。」
「どんなの?」
 本当は自分を直接知ってる人に絵とか作ったものは見せたくない、凄く変だから。でももうここまで来たら引き下がれず、スマホをいじって見せる。
「へえ〜、こんな絵描くんだ。良いねえ、珍しい感じだし…変わってて面白くて、好きだなあ。」
 恥ずかしかったけど、褒められるのは嬉しい。例え社交辞令だとしても。
「あ、ありがとうございます…。」

 その後も色々話していたらいよいよ眠気がやばくなってきたため、帰ることにした。彼が家の前まで送ってくれた。というか家まで入ろうとしてきたけど、流石に親が起きそうだから阻止した。
「今日はあの…ありがとうございました。いろいろ…」
「ヒッヒッヒ。じゃあ、もうあんなことしちゃダメだよ。そしたらまた…ヒヒッ、来ちゃうからね?」
「それはちょっと……もう大丈夫です。」
 煙のように彼は消えてゆき、ブンブン振る手とチェシャ猫のように浮かぶ口だけが遠ざかっていった。
 どうなるかと思ったけど、怒られたりしなくて良かった。優しかったな。こんなにちゃんと心配されたのは人生で初めてかもしれない、うちの親は私がおかしくなってても気付きすらしないから。全然頼りになんないし。
 そういえば………彼はどうやって私の部屋に入れたんだろう?聞き損ねちゃったな。聞きたくない気もするけど。

 ていうか彼にはもうしないとか言ったけど、全然普通にまだ死にたいしまたやるんだろうな。私の人生で結局やりたいことって「死ぬこと」なんだよなあ。そしたらまた彼は来てくれるんだろうか?
 ちょっとでもタイミングがズレたら、私の死体を発見するのは彼になるんだろうか。だとしたら申し訳ないなあ。
 何となく楽しくなってきた。今日がバイト休みで本当に良かった。とてもよく眠れそうだ。眠りは死の兄弟だから、それを繰り返せばいつかは死に辿り着ける気がする。
 それまでは、神出鬼没な彼に付き合ってあげても良いかな。

 


END

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