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                                    2020/4/15

『ハムスター』

子供が産まれた。困った。

別に不倫相手の子ってんじゃないし、自宅で産んだのでも私は未成年なんかでもない。

ちゃんと籍を入れた結婚相手との子だし、健康そうだ。

だけどこういう小さな命を見ていると思い返すことが一つある。

 

♢ ♢ ♢

 

庭。

母と姉が二人で屈んでなにかをしている。

姉は嗚咽している。泣いているようだ。

そうだった、私の飼っていたハムスターが死んだんだ。それで、二人は庭に埋葬している。

名前はチェリーちゃん。小学校低学年のときの名付けだから何も言うまい。

割と可愛がっていたと思う、小屋の掃除をして、手に乗せて右手左手と繰り返して渡らせたり。エサをやったり。だけどある日動かなくなっていた。

ママは全然悲しそうじゃなかった。

私は、「きっと私が死んでもこの人は悲しまないな」と恐怖した。たしか。

それで、そう、庭に出て、土に埋めてやっている、二人が。

何故私は手伝わないのだろう。夢を見ているときのように曖昧で、思い出せない。

姉は号泣している、それを見て私は、「なぜ姉はあんなに泣いているんだろう」と考えている。

悲しくないの?私は。悲しくなかったの?

あんなに世話をしたのに。飼いたいと言ったのも多分私だし、名付けたのも私、世話も大体私だったと思う(姉も時々一緒に遊んだ)。

硬く動かないあの子を見て、私は何を感じたんだろう。

ママは「死んでいる」と言ったけど、あれは冬眠だったんじゃないだろうか。冬なのに、匂いを嫌ってかあの人が寒い廊下にケージを出させたから。ペットヒーターも無いのに(当時小学生だった私は全然知識が無かった。家人も皆同じようなもんだったと思う)。

そう思ったのは、後から?あの頃は「冬眠」なんて知ってたかな。分からない。

何も分からないまま、私のあの子は土に埋められた。

姉は泣いている。

私はそれを少し離れたところから不思議そうに見ている。

 

♢ ♢ ♢

 

これだけだ。記憶というのは。

ロクなもんでもないが、度々フッと思い出すのだ。

これはどうでも良い。別に大した価値のない、細部も無い綻びた古くさい記憶。

だけど、もしまた同じようになったらどうしよう、とも思うのだった。

赤ん坊はもろい。

ちょっと調べると、原因不明の突然死なんかするらしいし、目を離すなんてもっての外、肌身離さずとも感染症に罹ったりうつぶせになったりなんだり、死んだり死んだり死んだり、正直クソゲーの主人公以上に死ぬと思う。

そのときに、私はまたあの時みたく、遠くから見てるだけなんだろうか。

彼と結婚したのだって、そんな風だったと思う。

昔からボーッとした子供で、なんとなく虚ろだった。

友達もあまり作らず、彼と交際したのは向こうが何故か好きだと言ってきたから気付くと付き合うことになっていて、いつの間にか結婚していた。

この子だって、なんで私の手の中に収まっているのか、よくわからない。

こんな風だから、こんなアイマイで間違った風だから、きっとまた死んでも悲しむ人を傍観するだけになりそうで、

 

それがすこし怖い。

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