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≪手切れ金≫ 21.7.16
歌えなくなった。自分の歌を聴くのもイヤになった。
あの子のせいで。
「私みたく歌いたい」と彼女は言った。とても影響を受けたと。
嬉しかったが、同時に『こんな下手な歌で?』とも感じた。
色々あり現在では疎遠になったが、今度は彼女の歌唱に感じてた違和感や不快感を自分のそれに覚えるようになった。
彼女の言葉で私の歌は壊れた。
もしかすると人のせいにしてるだけなのかもしれない、とも考えたが声を出そうとすると、それを考えるだけで起こるこの吐き気は彼女に感じたソレと同等である気がした。そして自分の汚さ、醜さが全て表れ込もっているようにも感じた。
あの子はまだ下手くそな音を並べてる。何も分からない、私とのことも歌のことも美しさも何一つ知らない観客たちが褒めるから、自身の音の汚さにも気付けないみたい。ドンドン劣化して崩れていくのももう聴こえないみたいだ。汚泥を砂金と見間違え続けている。解ろうともしないのだろう。
私の知ってたあの子はもう死んだのだと分かった。
毎日彼女が死ぬことを望んだが全然くたばる気配すら見せないため、私は曲を作った。生きる為にどうしても必要なのだった、あの子にとっては既におカネを稼ぐ手段でしか無くても。
それはたった1分40秒程度で、手切れ金ほどの価値しか無かったが、彼女の遺影を心の中で燃やすには充分だった。
白い灰を山に撒き、見上げると作り物の、あの吐き気のする濃い青に大きく膨らむ白い綿飴がくっつく。脇の下も背中もべたつき、下着が貼り付いて気持ち悪い。
もう私の大嫌いな夏が来ていた。
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